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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2472号 判決 1963年5月30日

控訴人 横浜信用金庫

理由

控訴人が昭和三一年五月一五日訴外小野康文に対し金九、五〇〇、〇〇〇円を、弁済期を昭和三四年五月一四日とし、利息を日歩三銭とし毎月末日限りその月分を支払い、その支払を一回でも怠つたときは期限の利益を失い元利金の残額を一時に支払うという約定で貸付け、その際訴外野村幸三郎がその所有の横浜市神奈川区西神奈川町三丁目七二番地の七宅地八四坪二合七勺(以下本件土地という)の所有権を、訴外小野の前記債務の不履行の場合には代物弁済として控訴人に移転する旨を予約したので、控訴人は昭和三一年五月二四日本件土地につき横浜地方法務局受付第二三〇二八号を以て右の所有権移転請求権を保全する旨の仮登記をしたこと、その後訴外小野は昭和三三年八月一六日以降の利息の支払をしなかつたため控訴人は前記約定に基いて昭和三四年二月一一日代物弁済予約完結の意思表示をなしこれによつて本件土地の所有権は控訴人に帰属したので、控訴人は同月二七日前同法務局受付第九八三三号を以て本件土地につき前記仮登記に基く所有権移転の本登記をしたこと、これより先昭和三一年九月一日本件土地については別紙目録(一)掲記のとおり仮換地七六坪三合九勺(以下本件仮換地という)の指定があつたので、控訴人は本件土地の所有権取得後は本件仮換地につき右の所有権の内容である使用収益の権限と同一の権限を有すること、訴外野村幸三郎は本件仮換地上に別紙目録(二)記載の建物を所有していたが昭和三三年二月一〇日被控訴人小林のため同人が訴外又新石油株式会社に対して有していた債権限度額金一、五〇〇、〇〇〇円の債権の担保とし右建物につき根抵当権を設定し、同月一三日その旨の登記をしたこと、その後被控訴人小林は右建物につき抵当権の実行に着手し昭和三四年七月二三日に横浜地方裁判所の競売開始決定を得、昭和三五年一〇月三一日には自ら右建物を競落し、昭和三六年一月二三日に競落代金を支払つて右建物の所有権を取得し、同月二五日その旨の登記をして現に右建物の敷地である本件仮換地(但しその内別紙目録(三)記載の建物の敷地部分三坪を除く)を占有していること、被控訴会社は被控訴人小林から同人所有の前記建物を賃借し、かつ本件仮換地の内別紙目録(三)記載の建物の敷地部分三坪を使用貸借により借受けてその上に右建物を建築所有し、これによつて現に本件仮換地全部を占有していることはすべて当事者間に争いのない事実である。

以上の事実によれば、訴外野村幸三郎は本件土地と本件仮換地上の建物とをともに所有していた当時に、建物のみについて被控訴人小林のために根抵当権を設定したものであるから、その後土地の所有権が控訴人に移転しても、競落によつて右建物の所有権を取得した被控訴人小林は民法第三八八条の規定により本件仮換地につき法定地上権を取得したものといわねばならない。しかし、一方、控訴人が本件土地の所有権を取得したのは野村との間の代物弁済の予約を完結したことに基くものであつて、その所有権取得登記は被控訴人小林のための前記抵当権設定登記以前に本件土地について控訴人のためになされた所有権移転請求権保全の仮登記に基いてなされていることも前示のとおりである。そして、右の仮登記権利者たる控訴人が本登記を備えたことによつて、仮登記後本登記までの間に仮登記義務者たる訴外野村によつてなされた本件土地についての処分行為で控訴人の権利に牴触するものの効力は否定されることとなり、右の処分行為によつて権利を取得した第三者はその権利を以て控訴人に対抗することはできなくなると解するのが相当である。本件において野村が本件仮換地上の建物に抵当権を設定した結果、建物の競落人たる被控訴人小林が本件仮換地について法定地上権を取得したことは本件土地についての野村の処分行為により直接にかかる権利を生じさせた場合と区別すべき理由はないから、野村の右の抵当権設定行為が控訴人の前記仮登記より後になされたものである以上、被控訴人小林はその取得した法定地上権を以て控訴人に対抗することを得ないというべきである。これと異なる前提に立つ被控訴人等の主張はこれを採用することができない。なお被控訴人等は、前記の建物には控訴人の右仮登記以前の昭和二七年一〇月一七日に商工組合中央金庫のため抵当権が設定されておりこの抵当権は競売の場合法定地上権成立の要件を備えていたから本件競売手続が被控訴人小林の申立によつてなされたものであつても同被控訴人は控訴人に対抗し得る法定地上権を取得した旨を主張するけれども、右の昭和二七年一〇月一七日当時本件土地と建物とが同一人の所有に属していなかつたことは被控訴人等の自認するところであるから、右の抵当権設定は法定地上権成立の要件を充たさず、したがつて被控訴人等の右主張も採用の限りでないといわねばならない。

してみると、被控訴人等は何れも控訴人に対抗し得る何の権原もないのに本件仮換地を占有して右土地に対して控訴人の有する使用収益権を侵害しているというほかはない。したがつて、被控訴人小林は控訴人に対し、別紙目録(二)記載の建物を収去して本件仮換地(その内別紙目録(三)記載の建物の敷地部分三坪を除く)を明渡し、かつ控訴人の本件土地所有権取得の後である昭和三四年三月一日から右明渡済までの損害金として、右の日から昭和三六年三月末日までの本件仮換地の賃料相当額であること当事者間に争いのない金七三、五〇〇円及び同年四月一日以降明渡済までの賃料相当額であることの当事者間に争いのない一カ月金三、六七〇円の割合による金員を支払うべき義務があり、被控訴会社は控訴人に対し、別紙目録(三)記載の建物を収去し、同目録(二)記載の建物から退去して本件仮換地全部を明渡すべき義務があるものといわねばならない。控訴人の本訴請求はすべて正当としてこれを認容すべきものである。

次に被控訴人小林の反訴請求は、既に説示したところから明らかなように、同被控訴人の取得した法定地上権が控訴人に対抗し得ないものである以上、その余の点につき判断するまでもなく、全部失当として棄却を免れない。

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